銀の風

三章・浮かび上がる影・交差する糸
―33話・黄色い炎―



敵意をむき出しにした少年の動きは、
我を忘れかねないくらい怒っているにしては無駄がなかった。
「クラェェェ!!」
ぶんっとうなりをあげて襲い来るモーニングスターをひらりとかわし、
アルテマが少年に切りかかる。
「てぇい!……って、外れた!」
しかしその一撃は、あっけなくかわされた。
決まれば確実に深手を負わせられたそれをかわされ、アルテマが悔しそうに歯噛みする。
こちらの人数は圧倒的に多いが、
寝起きで動きが鈍いメンバーも居るせいかなかなか攻撃が当たらない。
特にアルテマとフィアスは相当判断力や俊敏性が落ちているらしく、
アルテマはこのように剣を振るってもタイミングが狂い、
フィアスも精神集中がうまくいかず魔法が不発に終わったりしている。
「う〜……また失敗しちゃったよう。」
「フィーアスちゃん、無理しないで後ろに下がってなって!
その分アタシがやっとくから!」
だが、アルテマやフィアスの能力ダウンの分は、
夜に強いルージュやナハルティンがカバーしているので、
差し引きでいえば大した問題ではない。
「ウゥ……チョコマカシヤガッテ!!」
少年がかんしゃくを起こしたように怒鳴り散らす。
リトラたちの人数が多いので、
モーニングスターを振るおうとすると後ろや横から攻撃が降り注ぐ。
思うように攻撃ができず、あっという間に少年は防戦一方の展開に追い込まれた。
「リトラはん!」
―言われなくても分かってるっつーの、穀潰しウサギリス!
リュフタに言われるまでも泣く。
前線で仲間が敵をひきつけている間に、リトラは素早く詠唱を始める。
幻界を追放されて以来この世界に住む、契約した幻獣・ミドガルズオルムに波長をあわせ呼びかけた。
はるか遠くから主人に呼ばれた、ミドガルズオルムが答える声が脳裏に響く。
それを感じ取ったリトラは、精神集中から次へと移る。
「格を奪われ、幻界を追われて大地に隠れ生き延びるものよ。
土を愛す一途な心、終われてなお失わぬ穏やかな心。
それを信じ、汝を呼ぶ。いでよ、召喚獣・ミドガルズオルム!!」
リトラが詠唱を終えた瞬間にパーティの姿は消え、
入れ替わりに現れた大蛇・ミドガルズオルムが立ちはだかる。
鎌首をもたげたミドガルズオルムの大きさは、少年を圧倒していた。
「ナンダ……コイツハ。」
何が起きたか分からず、少年はあっけにとられている。
これは、ミドガルズオルムにとって好都合だ。今ならあっさりと技を決めることができる。<
「アース・サラウンド!」
ミドガルズオルムの咆哮と共に大地が割れる。
大地が引き裂かれる際の轟音が響き、少年がはっと足元を見ると、そこに地面はすでにない。
その直後、形成された大穴に少年の姿が飲み込まれ、彼の体は深い穴の底にたたきつけられた。
これで終わっただろうか。
やがて大穴があった場所が元に戻り、ミドガルズオルムが帰った後にその場所を見ると、
少年はかなりの傷を負いながらもまだしぶとく立っていた。
子供の体のどこに、こんな生命力を隠し持っているのだろう。その辺の魔物よりもよほど頑丈そうだ。
「グゥゥ……テメェラ、ヨクモヤリヤガッタナ!!!」
ひどい手傷を負いながらも、少年はリトラたちに捨て身とも思える勢いで突進してくる。
死んでもリトラ達を殺す気なのだろう。
だが今の少年ならば、油断さえしなければ確実に止めをさせる。
少年を迎え撃つために前衛のメンバーが攻撃態勢に入った、その時だった。
まるでリトラ達と少年の間に割って入るように眼前を横切った、黄色味を帯びた炎。
通常のものと違い赤くないその色は、明らかに魔法によるものだった。
「な、なに?!」
「うっそぉ!あ、あれって確か?!」
その正体を知っているのか、ナハルティンが声をひっくり返らせそうになりながら叫ぶ。
炎はリトラ達の眼前を危ういところですり抜け、
ふわりと着地してそこにあった草を飲み込むように焼き尽くす。
燃料を得て勢いよく成長する炎を見た瞬間、突然少年は目を見開き絶叫した。
「ホノオ……・?!!ウギァァァァァァァァァ!!!」
「な、なんだ?!」
少年は突然地面に膝をつき、頭を押さえて苦しみもがく。
冷や汗がどっと流れ出ているその様子は、尋常ではない。
一体何がおきたのか分からず、戦っていた事も忘れてリトラ達は互いに顔を見合わせた。
経験豊富なはずのリュフタやルージュ、それにナハルティンまでもが戸惑っているようだ。
「クソ……『アイツ』ガウルサイ……。キョウハミノガシテ……ヤ、ル。」
少年はわけのわからないことを言いながら、
ようやく痛みが治まったらしくふらりと立ち上がる。
「待ちやがれ!」
はっと我に返ったリトラが、逃げようとする少年に飛び掛る。
しかし次の攻撃を喰らう前に、彼はその場からふっと掻き消えるように姿を消した。
そして両者の間にあった炎は浮き上がり、すーっと飛んできた方向に帰っていく。
思わず動きを目で追うと、村の入り口近くにある建物の方へ飛んでいった様子が確認できた。
「いったい、誰なんでしょう……?」
ペリドは目をパチパチと瞬かせ、あっけにとられたようにつぶやいた。
同じようにアルテマやジャスティス、フィアスもぽかんとした表情でつったっている。
戦闘で眠気は大分飛んでいるとはいえ、次から次に起きた出来事についていけないようだ。
「おい、あいつらおっかけるぞ。」
「え、なんで??」
フィアスが、わけがちっともわからないという顔をしてリトラを見る。
まだ寝ぼけているのかとリトラはこっそり毒づいたが、
そんなことにかまっている場合ではないと思い直す。
「いきなりこっちめがけて魔法ぶっ放してきたんだ。
それもわざわざ外しやがって。何考えてるかくらい知りたいだろ?!」
「確かに……何か狙いがあると思うな。」
「言われてみれば、そうですね……。」
ルージュの言うとおりである。普通の神経の持ち主ならば、
他人が戦っているところにいきなり横から魔法を打ち込むような真似はしない。
その理由を問うためにリトラたちはすぐに走ってその後を追ったが、
あちらはまさか追いかけられているとは思っていなかったらしい。
拍子抜けするくらいあっという間に追いついた。この間、おそらく1分未満だろう。
「おいお前ら!ちょっと聞いていいか?」
「え、何を?」
知らない人間にいきなり話しかけられて、
薄い紫のローブを着た長い金髪の女の子が目を丸くした。
とぼけているわけではないらしく、本当に事情が分かっていない顔をしている。
「ナニナニ〜??」
「お兄ちゃんたち、まだ起きてたのぉ〜?」
それはこっちのセリフだと突っ込み返したくなるようなことを言った、
女の子よりさらに小柄な、オレンジの長い髪の男の子と濃いピンクのウェービーヘアの女の子。
顔は似ていないが、表情や雰囲気からは似たもの同士という印象を受ける。
言ったら悪いかもしれないが、賢そうな金髪の少女と違って、
この2人はあまり頭はよくなさそうだ。
「ねえお嬢ちゃん。
さっき、お嬢ちゃんたちが歩いているほうから火が飛んできたから、
そのことについて聞きたいんだけど。いい?」
アルテマが少しかがんで優しく言うと、
何故か金髪の少女は複雑そうな顔になる。どうしたのだろうか。
思わずアルテマは首をひねった。
「いいけど……えーっと、ぼく、これでもオス……ううん、男の子なんだけど。」
いきなり性別を間違えられたせいか、かなり引きつった顔で、
ところどころつまりながらも金髪の少女、もとい少年は自分の性別を告げた。
その言葉で自分の失態に気がついたアルテマの顔が、一気に青くなる。
「え?!そ、そうだったの……ごめんね。」
よりにもよって性別を間違えてしまって、
アルテマはしどろもどろになりながらもとにかく謝った。
年下とはいえ、初対面の相手に対する最大級の失礼に当たるから当たり前だ。
ある意味、名前を間違えるよりもひどい。
「いいよ、みんな間違えるみたいだし……。」
もうあきらめきった顔をして、金髪の少年はつぶやいた。
しかし彼には悪いが、正直言って女の子にしか見えない容貌である。
外跳ねしているとはいえ、長く柔らかい色合いの金髪に優しげな顔立ち。
おまけに服装がローブとあっては、その幼さも手伝って男に見える方が不思議というものだ。
その辺の女の子よりもずっとかわいい顔立ちに、
アルテマは神様は不公平だと八つ当たり気味に心の中でつぶやく。
「で、話しを変えるけどよ。
お前ら、何でおれらの方に魔法ぶっ放したんだよ?」
「え〜っと、それはネェ……。」
目を泳がせながら、オレンジの髪の少年は口を濁す。
本人が自分の行動の理由を知らないはずはないので、これは絶対に何か隠している。
ここまでわかりやすいと、大人の目から見たらいっそかわいいくらいかもしれない。
しかしリトラたちは大人ではないので、当然追求を試みる。
「それは?」
「……ちょっと、お兄さんたちがたたかってた相手が、気になったんだ。」
オレンジの髪の少年に代わり、金髪の少年がじっくり言葉を選ぶようにゆっくりと語った。
思いがけないというよりは、何か深いわけがありそうな理由に興味を引かれる。
「えーっと……それはどういうことですか?」
「うーん、話すと少しめんどくさいんだけど……。
前にいなくなっちゃった仲間に、ちょっとだけにてたから。」
「よけいにわからねえよ……。」
どこの世界に、居なくなった仲間に似ている人物に向けて魔法をぶっ放すやからが居るのだ。
ここに居るといえばそれはそうだが、ここ以外にそんなやつが居るとは思えない。
もう少し詳しく教えてもらいたいと思っていると、
今度はまたオレンジの髪の少年が口を開いた。
「イヤー、そいつ火が大っきらいなんだよネ。」
「つまり、火を見ておびえたり逃げたりしたらそいつかもしれないって思ったのか?」
2人の話からすると、それくらいしか理由が思いつかない。
頭痛がしそうなあほらしさだと思いながらも、それをこらえてルージュが問う。
あほだろうがなんだろうが、彼は理由を問いたださないことには気がすまないのだ。
「そうだよぉ〜。3人で相談したんだぁ。」
「でも、火を見たら誰だってこわくて逃げると思うんやけどなー……。」
リュフタはもっともなつっこみを入れたが、
こんなリトラ達以上に小さな子供の考えることだ。
年長者から見れば思考が浅はかでも短絡的でも、多少なら当然である。
かくいうリトラ達も、同種族の大人から見れば立派な子供なのだが。
「え〜、でもグリモーのはすごいからすぐにわかるよぉ。」
「グリモーって、火がきらいな子の名前?」
「ウン、そうだヨ。」
火が嫌いということは、火事にでもあった口だろうか。
何しろ半年より少し前には、各国にバロンの侵攻があり、魔物も平時より凶暴だった。
巻き添えを食らう格好で起きた火事の1つや2つは、珍しくなかったかもしれない。
なんにせよ、気の毒な目にあったことには違いないだろう。
「そういう事情とはいえ、ずいぶん乱暴なことをしますね……。」
ジャスティスはいささか呆れたように言った。
ここまで無鉄砲な思考回路には、やはりついていけないらしい。
「う〜ん……まあ、そうかも。
ところでお兄さんたち、丸っこくて透明で、
このくらいの大きさの宝石がついたペンダント知らない?」
金髪の少年が、手で小さな丸を作ってみせる。
その大きさは宝石にしては破格の大きさで、少年の手のひらくらいはありそうだ。
そんな石に、リトラは心当たりがあった。
「……その丸っこい石って、もしかしてダイヤモンドみたいな石か?」
急に話を変えられたので戸惑いながら返事を返すと、
オレンジの髪の少年がぱっと目を輝かせて手のひらを合わせた。
「あ、大当たり〜!すごいね、ダイヤモンドのこと知ってるノ?!」
「知ってるも何も、それはおれの国で今行方不明になってる国宝だよ!
おれも今、それを探してるんだ。」
あ、ばらしちまった。と、リトラは心の片隅で失敗に気がついたが、
この際で、形くらいならばれてもいいかと思って無視した。
勢いで言ってしまった事なので、リュフタもいちいちとがめない。
「え?!『鍵』なのにペンダントなの?!」
「まあ……ちょっと変な言い方かも知れへんけど、そうなんや。」
形も何も知らされていなかった仲間の多くが、えっというように目を丸くする。
『鍵』という呼び名なのにペンダント状という事実が、ひどく矛盾しているように感じるようだ。
「かぎなのにペンダントって、おかしいよー……。」
「うるせー、国でみんなそう呼んでるんだよ!」
おかしいといわれても、リア帝国では古くからそう呼ばれているので仕方がない。
本来の名前は知らないので、ペンダントの形だろうと『鍵』は『鍵』、そういうしかない。
「ねぇ、それっていったいなんのカギなの?『六宝珠』じゃないのぉ?」
濃いピンクの髪の少女が、不思議そうにリトラたちに聞いてきた。
『六宝珠?』
急に飛び出した、いまだ聞きなれない名詞に、
フィアスとアルテマ、それにジャスティスとナハルティンの声がダブる。
「って、あんた知らないの?!」
アルテマが信じられないといった様子でナハルティンを指差した。
かくいう彼女は、以前に六宝珠の説明を聞いておきながら、
それをすっかり忘れているのだが。
「実は知ってましたとか言わねぇだろーな?!」
「だってー、アタシは地界の細かいところまで知ってるわけじゃないも〜ん。」
ナハルティン本人はあっけらかんと言ってのけるが、
はっきり言って嘘だろうとパーティのほぼ全員はつっこみを入れたくなる。
長命な上級魔族で、付き合いも浅いながら知識が豊富という印象がある彼女が、
まさか「知らない」と言うとは思えなかったのだ。
もちろん彼女も神ではないし万能ではないのだから、
たまにはこういう事があってもおかしくはないのだが。
しかし、そこまで考えが及ぶほど思考に幅のある者はほとんど居ない。
「六宝珠だと〜……?お前ら、そんなものを集めてどうするつもりだ?」
「うわ、ドラゴン……。」
冷ややかな視線を送りながら一歩前に進み出たルージュを見て、
露骨に少年たちがおびえた表情を見せた。
「そりゃドラゴンは怖いですよねー……。
って、何で坊やたち見ただけで分かったんですか?!」
ペリドがはっと気がついて少年たちにつっこみを入れた。
ルージュは確かにパープルドラゴンだが、見た目は魔法で人間そのままだ。
普通見破れるはずはないのに、なぜこの少年たちは見破れたのか。
「あ、ヤベ!」
「やべじゃないでしょ、パササのばか……。」
「今のは聞かなかったことにシテ☆」
パササと呼ばれたオレンジの髪の少年が、元気にむちゃくちゃなことを言い放った。
金髪の少年は、仲間のミスに深いため息をついている。
たぶん、今までは彼らなりに努力して正体を隠していたのだろう。
しかし今の言葉で、外見以外に相手の正体を判別しようがないメンバーにも、
彼らが人ならざるものということが知れた。
「だまれ下等生物ども。
たかが動物の分際で、ドラゴンをごまかそうなんて1000年早い。
貴様らの正体なんざ、最初からにおいでお見通しだ。」
『が〜〜〜〜ん……。』
ルージュに冷たく宣告されて、少年達は3人ともショックで落ち込んだ。
そのローテンションのほどはというと、背後に人魂まで見えそうなくらいである。
ここまで一気に変わると、見ていて面白いくらいだ。
「あっはっは、ほんっと面白い子達だね〜♪
うーん、やっぱりこういう上級種族にない感覚って新鮮〜。」
憮然としたルージュの横で、ナハルティンがけらけらと腹を抱えて笑い出す。
しかし、リトラは笑うどころではない。
「どこがだよ!こいつらの相手してるとめちゃくちゃ疲れるじゃねーか!
こっちまで馬鹿になっちまう!」
こういうタイプにはいらいらさせられるだけらしく、
リトラは元々つりあがった眉をさらに吊り上げて怒鳴る。
それはあんまりではないかと、ペリドやジャスティスは思ったが。
「あ〜、ひどいよぉ〜!破滅の歌をうたってやるぅ〜!!」
『それはやめてーー!!』
案の定、濃いピンクの髪の少女の堪忍袋の緒が切れた。
ハープを構えて歌おうとする彼女を、パササと呼ばれた少年と金髪の少年が必死に止める。
リトラたちは彼らの内輪事情など知る由もないが、
「破滅の歌」というネーミングからして、相当やばい歌なのだろう。
とりあえず、止めてくれた2人には少しだけ感謝しておいたほうがいいかもしれない。
「……で、もう一度聞くが、お前たちは六宝珠を集めてどうするんだ?」
また話がそれてしまい、いらいらした様子でリトラがぶっきらぼうに問いただす。
すると少年たちはそろって考え込み、
そして難しそうな顔をした金髪の少年が一言つぶやく。
「集めて……どうするんだっけ?」
今度こそ、全員開いた口がふさがらなくなった。
集めているといっておきながら、それをどうするか忘れている。
なんといういい加減さだ。もう我慢できずに、リトラはすうっと息を吸い込んだ。
「おめーらの脳みそはゴブリン以下かぁぁぁぁぁ!!!」
『うひゃぁぁ!』
時間などお構いなしの大音量の罵声を浴びせられて、
相手の少年たちは考える前に耳をふさいだ。
「ちょっとリトラさん!今何時だと思ってるんですか?!」
「うるせー!どうせ地下とかに逃げてるんだからいいだろうが!!」
「そういう問題やないで〜!!」
すっかり半バーサーカーと化したリトラの怒りは留まる所を知らない。
ペリドが怒っても、リュフタがたしなめてもまるで聞く耳を持たなかった。
むしろ、止めようとすればするほど火に油を注ぐ結果になっている。
「まあまぁ、怒るとよけい馬鹿になるよぉ?」
「余計って何だ!こぉんの空っぽオーガ頭!!
てめーの頭にゃ、脳みそなんて入ってないだろ!!」
なだめる気がどこまであったのかは謎だが、
濃いピンクの髪の少女のとんちんかんなセリフは当然リトラの怒りを促進した。
「うわ〜ん、ひどいよ〜!ハープカッターでぐちゃぐちゃにして夜食にしてやるぅ〜!!」
「んだと〜?!」
「あ〜もう、両方ともいい加減にしてよーー!!」
お互いの言葉でお互いを怒らせる結果となったリトラと少女の、
殺気にも近い怒気のこもった視線がぶつかる。
このままではいつ殴りあいになってもおかしくない。金髪の少年がたまりかねて怒鳴った直後。

 “まあまあ、そこまでにしとけって。”
突然その場に居た全員の頭の中で、場に似つかわしくない飄々とした男性の声が響く。
『?!』
「え?え?」
アルテマやフィアスが、全然状況をつかめずにきょろきょろと辺りを見回した。
だが辺りには声、いやテレパシーの主と思しき人物はどこにも居ない。
“あーごめんごめん、驚かせたか。そうだな、喋る時に袋の中からじゃちょっと失礼だ。”
また、同じ声のテレパシーが脳裏に響く。
すると袋の口がひとりでに緩み、中から大きな丸っこい正方形のエメラルドが顔を出した。
澄んだ深い緑に輝く石の中には内包物一つなく、そのフォルムもあってキャンディを彷彿とさせる。
正方形の一辺には、金と銀かプラチナを組み合わせたチェーンが取り付けられている。
宝石の大きさを考えると、重くて首から下げられそうにないが、これでも一応ペンダントのようだ。
“ぷはー、やっぱり外の空気はいいな。”
「お前口なんてないクセに……。」
パササと呼ばれた少年が、ボソッとつぶやく。
しかし、親父くさいセリフをはいた当のエメラルドは意に介さない。
そのセリフ一つで、最高級の見た目がかもす高級感も台無しになった。
「こ、これがえーっと……ろくほーじゅ?」
“うむ、いかにも我が名はエメラルドである。”
えらそうな口調のテレパシーが飛んできたが、
親父くさいセリフを言われた後では、あまりありがたみも威厳も感じられない。
アルテマやフィアスあたりは、宝石が喋ったと大騒ぎしているが。
ルージュとナハルティンはあほらしそうに彼らを眺めていたが、
普通石は喋らないのだから、それで馬鹿にするのは酷というものであろう。
「何えらそーにしてるんだよぉ〜!
いっつも重いだけで、ぜんぜん役に立たないくせに。
しかもしゃべり方までわざと変えてるしぃ〜。」
“なんだと。いいじゃないか、初対面の奴らの前でえらそうにしたって。
第一印象で、「あ、こいつすごいんだな。」って印象付けたほうが得だろう?
お前ら、第一印象の重要さを知らないな?”
もうこれ以上脱力する事態はないと思っていたリトラ達だったが、
エメラルドが辺りに飛ばすテレパシーで、さらに力が抜けていく。
もうすでにこのノリについていく気力はゼロなのに、
これ以上脱力したら全員軟体動物になりかねない。
いくらなんでも、イエローゼリーやレッドマシュマロに成り下がるのはごめんだ。
頼むからこれ以上あほなせりふを言うのをやめてくれと、
リトラもルージュもジャスティスも心の底から叫びたかった。
「もうやめてよ〜……『だいいち印象』だかなんだか知らないけど、
すっごくばかにされてるよー……。」
金髪の少年の言うとおり、特にリトラやルージュはこの少年たちを馬鹿にしきった目で見ていた。
無理もないことだが。
(いい加減俺の理性の限界だ。こいつら、食い殺してやろうか……。)
((やめてください!!))
ぼそぼそとルージュが物騒なことをつぶやき、
それをまた小声でペリドとジャスティスが制する。
こちらまで引きずられて馬鹿になりつつなるのかと、内心リトラはげんなりする。
これ以上何を聞いても無駄かもしれないが、最後に一つこれだけは聞きたいことが、リトラにはあった。
「おいお前ら、六宝珠探してるんだろ?てことは、ダイヤモンドも手に入れる気があるんだよな?」
リトラがにらむような目つきで少年たちを見据える。
一瞬、彼らの体がびくっとこわばった。
「ウーン……まぁ、いちおう手にいれ」
オレンジの髪の少年がそういいかけた瞬間、思わずリトラの片眉がつりあがった。
それを見た金髪の少年は、やばいと思ったのかガバっと片手でオレンジの髪の少年の口をふさいだ。
「むががっ。」
「て、手に入れたらそのとき考えるから!って、わけだから……さ、さよならー!」
「あ、待てこら!」
そんないい加減な返事で納得できるかとリトラが声を張り上げたが、
まるで嵐のような3人組+六宝珠は、夜の闇のどさくさにまぎれてどこかへ行ってしまった。
脱兎よりももっと速い。チョコボのごとき逃げ足だ。
「あーあ、行っちゃった〜……。
おともだちになれるかもしれなかったのにな〜……。」
とても残念そうにフィアスがつぶやく。
「リトラ、あんたあんな小さい子達をにらむことないじゃないの。」
呆れた様子でアルテマがリトラを非難する。
リトラの表情が途中で険しくなったせいで、
言いたいことも途中でやめていってしまったと彼女は受け止めたようだ。
事実、彼らの行動を見ているとその考えは当たっているようだった。
「それにしても、と〜んでもないライバルが増えてしもうたみたいやなあ。」
「あの方達が探してる『六宝珠』と、リトラさんが探している国宝が同じものだからですか?
まさか、あんなに小さい子がライバルなんて……ちょっと信じられませんが。」
ジャスティスは、いまだに気持ちの上で納得が出来ないらしく、
眉間にしわをこしらえつつ首をひねっている。
「まーったく……なんだったんだよ、あいつら。」
どうにもややこしくなりそうな気がして、リトラはため息をついた。
事態を引っかき回すだけ引っかき回して逃げていった少年たちに、
今度会ったら召喚獣でもけしかけてやろうかと考えながら。
そこまで考えて、リトラはふとあることを思い出した。

目の前に飛んできた炎の魔法の正体を、聞きそびれたことに。



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へい一丁あがりぃ!(何だお前
そして2ヶ月の悪夢再び。もう嫌だ。今年はほぼ6話しかアップしてないんじゃないですかね?
こんなんじゃ何年かかっても終わりませんよー……。
ちなみにプーレが女の子にしか見えないのはもう公式見解です。
プーレの絵を見たクラスのダチが、皆女の子と認識したので(プーレ本人的には大悲惨
そしてプーレたちが喋りだすと、急に未来のかけらのノリになるというオチ。
恐るべし馬鹿どもパワー。
制御する気もなくほっといたら、話がころころ変わって描いてる本人にもわからなくなりました。(爆死